「ムタとTシャツと私」 

text by poeko koshinaka



「私、この子好きやねん。魔裟斗。カッコイイし、おシャレやし、何か色気あるねん。」

これは最近、一緒にテレビを見ていたうちのオカンの口から飛び出した言葉です。

魔裟斗がおシャレさんかどうかは個人の判断にお任せしますが、確かにここ数年の格闘技界は、見る側はともか
く、選手側も自らのキャラクターTシャツなどのデザインを手掛けたり、ブランドを立ち上げたり、香水の監修に携わったりと(←これも魔裟斗)ファッションリーダー的な存在となってきてるのは確かなようです。

一方、「橋本(真也)の美肌を真似したい〜」や「最近コジ(小島聡)って服装変わってきたね、結婚したからかな?」なんて小粋なトークをうちのオカンの様な主婦層はおろか、街行く娘達の口から聞いたことはありません。それどころか、日常会話の中ではなかなか聞く機会にも恵まれません。もし、女・子供の口からそんな固有名詞を聞く機会に遭遇するのならば、その時はたぶん彼らが「ダイエット本」や「簡単レシピ」を発売した時と思われます。

私が思うに両者の決定的違いは、前者が格闘家なのに対し、後者はプロレスラーである事だと思います。それはおしゃれ度として色濃く反映され、女・子供の認知度や注目度にも比例しているように思われます。

私がせこく働く会社の隣のホテルは、全日の大阪興業の際に選手達が利用します。そういうわけで、馬場さんの柄のバスがホテルの前に止まれば、私の血は騒ぐわけです。しかし勤務時間内なもので、周りの目を気にしながら会社を抜け出し、そして会場入りの為にバスに乗り込む選手をこっそりと見るのが私のささやかな楽しみなのです。

状況設定はさておき、数年前のそんなある日、遅めの昼食を済ました部内の男性社員がひとり私の横に立ち「馬場のバス止まってるで。」と教えてくれました。その数ヶ月前に武藤・コジが全日へ移籍していたのを思い出した私は、スイッチ・オン状態で他部にいるデジカメ所有の友人の元へ走りました。特にプロレスに興味のない彼女で
したが、すぐに快諾、そして二人はデジカメを持って社外へ出ました。(なぜ友人を誘ったかというのは、デジカメと他にシャッターを切る人が欲しかったから。プロレス雑誌の写真投稿のページのコジは、女子でも必ず肩に手を回してたからです。だって憧れてたんだもん♪)

あいにく、コジをはじめとしたほとんど選手がバスに乗り込んだ後でしたが、ラッキーな事に武藤氏はまだでした。ちょうどその時、急ぎながら現れた武藤氏の着用していたTシャツに私は度肝抜かれました。彼は何食わぬ顔でサラリと着こなしていましたが、それは『それは何の柄?どこで買った?いや、買うことができたのですか?よろしければ購入年代も。』と問いたくなる様な何とも形容し難いものでした。
そしてそのカラーはまさに“心の涙色”でした。
非常に言いにくいですが、てっとり早く言うと、その汗で黄ばんだ色(すみません)とかなり緩めの首元、そして本人の体と相反して布地は痩せきっていました。
あれは、大掃除の時に窓拭き用の“サラぞうきん”として、オカンの手によって勝手にデビューさせられても文句は言えないと思います。(注:“サラ”というのは、大阪弁で新品の意)そして、私達がそれに怯んでいる隙に、彼はバスのステップに足をかけていました。
すぐに追いかけ「すいません、握手を」と懇願してみたものの、申し訳なさそうに「ごめん、時間が全然なくて。」との言葉を残し、バスに乗り込んでしまいました。

走り出したバスには、握手や写真に応じられなかった事を詫びるかのように、角を曲がって見えなくなるまで手を振り続けている彼の姿がありました。一緒にいた友人は???なTシャツを見つつも、「かっこええなぁ。」と呟いてくれました。

 今となってみて、その光景と同時にいつも思い出す言葉があります。それは、数年前スノーボードにはまった友人が吐いた暴言で、「ボードがうまけりゃ、パチもんのD&G着てても山の上では王子様。でも標高が下がるとアウトやで。」というものです。
そうです、そうなんです!プロレスを極めてて、さらに体丸ごとプロレスloveの彼ならばそれでよし。そしてむしろプロレスラーは世間とズレぎみな感覚を持っていて、それをサラリとこなす方がかっこいいと確信を深めたのでした。

(注:武藤氏の着こなし術が見たいという方は、第一回目の『猪木祭』のパンフレット等を参照されるとよいかも知れません。いえ、これは最高に堪能できるはずです。)
 
それに引きかえコジは数年前からファッションに目覚め、色気づいていますね。レスラーカットも切ってしまい寂しい限りです。

最後になりますが、2003年大晦日のdynamite!!のゲスト解説に来ていた光司君(元貴乃花関)が、たった一人華やかにタキシードで決めていた妙に滑稽な姿は、おしゃれ化が進む格闘界に“大事な何か”を教えてくれているような気がしました。

name: 越中 ぽえこ ( Poeko Koshinaka )
birth: 昭和48年6月生まれ。趣味はペタンクの球磨き。